フランク ミュラー 5850T ―インペリアル・トゥールビヨンという思想―

ヴィンテージから現行モデルまで幅広い時計を取り揃えるリベロが注目する新旧のレアモデルを紹介する連載コラム。第42回は、フランク ミュラー 5850Tを紹介する。

フランク・ミュラーが「ブレゲの再来」あるいは「若き天才時計師」と称されるようになった背景には、若干28歳にしてトゥールビヨン機構を再構築したという、時計史において特筆すべき実績がある。

トゥールビヨンとは、地球上の重力によって生じる姿勢差精度の誤差を自律的に補正するための特殊機構であり、機械式時計における最高峰の複雑機構の一つである。一方で、その極めて複雑な構造ゆえに繊細で、外部からの衝撃に弱いという弱点も併せ持っていた。

フランク・ミュラーはこの課題に対し、「フリーオシレーション(自由振動)システム」と呼ばれる独自の構造を開発する。これは、動きの激しい腕上においても安定した作動を可能にするトゥールビヨンであり、高い耐久性を確保しながら、クロノメーター規格にも通用する精度を実現したものである。実用性と理論を高次元で融合させたこの成果こそ、彼が天才と呼ばれる所以である。

 

  • フランク・ミュラー
    インペリアル トゥールビヨン
    型番:5850T
    ケース素材:Pt950
    ケース径:約45mm x 約32mm
    ムーブメント:手巻き
    付属品:箱 商品の詳細はこちら≫

 

インペリアル・トゥールビヨンという名称

「インペリアル・トゥールビヨン」という名称は、単なる称号ではなく、一つの寓話的思想に基づいて与えられている。

かつてアジアの王侯貴族の間では、トゥールビヨンを搭載した懐中時計が極めて珍重されていた。しかしその一方で、構造のあまりの複雑さと繊細さから故障が頻発し、「この時計には悪魔が宿っている」として、不吉な存在として忌避されたという言い伝えも残されている。高度な技術が同時に畏怖の対象ともなった時代を象徴する逸話である。

フランク・ミュラーはこの伝承に着想を得て、インペリアル・トゥールビヨンを構想した。耐久性と安定性に優れたトゥールビヨンを完成させる技術は、彼にとって特別な挑戦ではなく、むしろ本領とも言える分野である。そのうえで本作では、機構そのものに象徴的な意味を与えるという、彼ならではの思想が加えられている。

 

六本の剣が守る天符

このモデルにおいて、トゥールビヨンの天符を収めるケージは、前後6本の剣を模した意匠によって構成されている。これらの剣は常時回転し、あたかも外部から侵入しようとする「悪魔」を退けるかのように、天符を守護する役割を担う。

この表現は単なる装飾にとどまらず、機構そのものに物語性と寓意を付与する試みであり、フランク・ミュラーの時計哲学を端的に示す要素である。

フランク・ミュラーは、時計の心臓部である天符を人の「生命」に重ね合わせた。すなわち、インペリアル・トゥールビヨンは精度追求のための装置であると同時に、オーナーに降りかかる災厄から身を守る存在、いわば「魔除け」や「お守り」としての意味を内包した作品として構築されているのである。

 

皇帝の名にふさわしい仕上げ

本モデルのムーヴメントには、熟練職人の手による精緻なエングレービングが施されており、シースルーバック越しにその美しい彫刻を堪能することができる。機構美と装飾美が一体となったその姿は、まさに特別なスペシャルピースと呼ぶにふさわしい。

その名が示すとおり、5850T インペリアル・トゥールビヨンは、「5850」という絶妙なサイズに技術、思想、象徴性のすべてを兼ね備えた「皇帝のトゥールビヨン」なのである。

 

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