「幻の複雑機構」―ロジェ・デュブイ初期の金字塔『シンパシー・バイレトログラード 52週 永久カレンダー クロノグラフ』

ヴィンテージから現行モデルまで幅広い時計を取り揃えるリベロが注目する新旧のレアモデルを紹介する連載コラム。第37回は、ロジェ・デュブイ「シンパシー・バイレトログラード 52週 永久カレンダー クロノグラフ」を紹介する。
創業者ロジェ・デュブイ氏の哲学
時計師ロジェ・デュブイ氏は、パテック・フィリップにて17年ものキャリアを積んだのち、1995年、57歳のときに、自身の理想を体現するメゾンを立ち上げた。ジャン=マルク・ヴィーダレクト氏や時計デザイナーのカルロス・ディアス氏とともに、自身の名を冠したブランド「ロジェ・デュブイ」を共同で創業したのである。

創業時から2000年初頭にかけて、同ブランドは高い理想を掲げ、ケースデザインおよび機能面においても他に類を見ないエキサイティングなモデルをいくつも発表した。
複雑機構の設計と仕上げにおいて天才と称されたデュブイ氏の理想主義は、極端な製造コストの高騰と納期の遅延を引き起こし、ブランドの運営を不安定化させた。また、サプライヤーとの間には度々摩擦が生じていたとも言われている。
このような背景から、2000年前後のロジェ・デュブイの時計は、「あまりにも美しすぎて届かない」「生産数が少なすぎて市場にほぼ出回らない」と言われ、コレクターの間では“幻のコンプリケーション”として語られる存在となった。
そのこだわりゆえに商業的困難と資金繰りに苦しむこととなり、2003年頃からは資本提携や経営の刷新を余儀なくされる。そして2005年には新経営陣のもと、ブランドは商業化の道を加速させ、それまでこだわり続けていた「限定28本」などの少量生産主義も見直されることとなった。さらに2008年にはリシュモン・グループの完全傘下となり、ブランドはほぼ別のコンセプトのもとで生まれ変わるに至った。
今回紹介する『ロジェ・デュブイ シンパシー・バイレトログラード 52週 永久カレンダー クロノグラフ(Sympathie Bi Retrograde Perpetual Calendar Chronograph)』は、2000年前後に発表された、ブランド初期のフラッグシップとも言えるハイコンプリケーションモデルである。
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ロジェ デュブイ
シンパシーバイレトログラード 52週 永久カレンダー
型番:S43.56.100W6
素材:K18WG
カラー:ホワイトダイヤル
ケース径:約43mm
ムーブメント:手巻き 商品の詳細はこちら≫
ケースは18Kホワイトゴールド製で、八角形と曲線を融合させた複雑な構造を有している。その内部には、パテック・フィリップのRef.3970などでも使用された名機・レマニア2310をベースとするCal.RD5637が搭載されている。これは手巻き式クロノグラフムーブメントであるレマニア2310に、永久カレンダーのモジュールを追加したものである。
ISO 52週(=1年)表示を備え、日付を9時側、曜日を3時側にそれぞれレトログラード針で表示する。曜日表示は月曜日から始まり、日曜日の終わりにバネの力で瞬時に月曜日へと戻る構造である。日付表示も同様に、月末(閏年を含む)になると、1日へとジャンプする仕組みが採用されている。
このバイレトログラード・カレンダーを搭載するモジュールは、ハリー・ウィンストン時代にヴィーダレクト氏が開発した機構をもとに、ロジェ・デュブイ氏と共同で設計されたものである。
さらに、このような複雑機構を備えたモデルでありながら、精度にも妥協せず、「全モデルにジュネーブ・シール(Poincon de Geneve)とCOSCクロノメーター認証を取得する」という当時のブランドポリシーに従い、本モデルでもそれを実現している。
ダイアルには、左右に2本のスワロー型針を配置し、12時位置にムーンフェイズ、6時位置に月と閏年表示を備えるなど、複雑機構を備えながらも高い視認性を確保している。

シンパシー・バイレトログラード 52週 永久カレンダー クロノグラフは、その複雑機構、希少性、そして芸術的とも言えるケースおよびダイアルの設計によって、ハイ・コンプリケーション愛好家やコレクターにとって極めて価値の高い作品である。
2017年に逝去したロジェ・デュブイ氏が、あくまで「利益度外視」で作り上げたこのモデルは、彼の哲学と情熱が詰まった孤高の1本であり、まさに後世に残すべき至高の時計である。

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