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プレ・リシュモン期の至宝「シンパシー クロノグラフ S34.56.5」が放つ静かなるプライド

ヴィンテージから現行モデルまで幅広い時計を取り揃えるリベロが注目する新旧のレアモデルを紹介する連載コラム。第45回は、ロジェ・デュブイ「シンパシー クロノグラフ S34.56.5」を紹介する。

独立時計師時代の魂が宿る「シンパシー」の正体

1995年の創業からリシュモングループ傘下に入る2007年までの、いわゆる「プレ・リシュモン期」の作品群は、現代のロジェ・デュブイとは一線を画す工芸的価値を湛えている。丸型でも角型でもない独創的なケースフォルムで世界を驚かせた「シンパシー」の中でも、今回紹介する「シンパシー クロノグラフ (Sympathie Chronograph S34.56.5)」は、当時の設計思想を最も純粋に体現した一本と言える。

このモデルを語る上で避けて通れないのが、その圧倒的な希少性である。総生産数はわずか28本。この極小の数字は、当時のロジェ・デュブイが商業的な成功よりも、純粋な時計製作の理想を追い求めていたことの証左にほかならない。現在、初期ロジェ・デュブイの個体は「市場で見かけること自体が極めて困難」と言われるほど枯渇しており、コレクター間のプライベートな取引が多くなっている。この「手に入れたくても手に入らない」という絶対的な希少性が、名機としての神格化にさらなる拍車をかけているのである。

 

  • ロジェ・デュブイ
    シンパシー クロノグラフ
    世界限定28本
    型番:S34.56.5
    ケース素材:ピンクゴールド
    ケース径:約34mm
    ムーブメント:自動巻
    付属品:箱・保証書(1997/7)・タグ・裏蓋 商品の詳細はこちら≫

 

技巧が凝縮された文字盤と特殊な風防

このモデルのアイデンティティを決定づけているのは、ケースの造形と完璧に同調した細部の作り込みである。シンパシー特有の複雑な多角形ラインに沿って加工された特殊形状のサファイアクリスタル風防だ。この歪みのないカッティングと完璧なフィッティングは、当時の加工技術の限界に挑んだ極めて難度の高い意匠であり、ケースの立体感をより一層際立たせている。

 

文字盤は伝統的なエナメルを彷彿とさせる光沢のあるホワイトラッカー仕上げが施されている。さらに鏡面に磨き上げられたアプライドのブレゲ数字が12時と6時位置に鎮座する。この古典的かつ緻密なレイアウトは、独立時計師としてのロジェ・デュブイ氏が、いかにパテック フィリップに代表される「ジュネーブの伝統」を深く敬愛していたかを物語っている。34mmという凝縮されたサイズの中に、これほどまでの情報量と品格を同居させた手腕は、正に驚異的と言うほかはない。

 

ムーブメントに宿るジュネーブの誇り

搭載される手巻きクロノグラフ「Cal.RD56」は、名機レマニア2310をベースとしながらも、ロジェ・デュブイ独自の手法で徹底的に磨き上げられた傑作である。

厳格な基準で知られるジュネーブ・シールの取得はもちろん、極めて高度な5姿勢調整、そして伝統的なコラムホイール式の採用。これら当時の最高水準を満たす仕様は、単なるスペック以上の重みを持つ。特筆すべきは、創業者ロジェ・デュブイ氏本人が直接調整に関与した個体が存在するという事実だ。パテック フィリップの複雑時計部門で腕を磨いた時計師の息吹が直接吹き込まれたモデルは、もはや工業製品の枠を超え、一個人の情熱が結実した「芸術作品」へと昇華されているのである。

 

コレクターズピースとしての現在地

過去、オークションハウスにおいて高額で落札された記録も残っているが、近年、創業期(=プレ・リシュモン期)の再評価により、市場価値は当時とは比較にならないほど上昇している。

創業期という歴史的背景、各品番28本という限定的な個体数、そしてジュネーブ・シール取得による絶対的な品質。これらの要素が重なり合い、現在では文字通り「見つけること自体が奇跡」と称される幻のピースへと変化を遂げた。かつては知る人ぞ知る名品であったシンパシーは、今や世界中の愛好家が血眼になって探し求める、究極のコレクターズピースとしての地位を不動のものにしている。

シンパシー S34.56.5は、単なるヴィンテージウォッチの範疇には収まらない。それはブランドが規模を追う以前、思想と技術だけで語られていた黄金時代の結晶である。

時計師個人の情熱とジュネーブの伝統技法が、完璧なバランスで融合したこのタイムピース。それは現代のロジェ・デュブイが商業的に求められた進化を理解する上でも、決して欠かすことのできない最も重要な原点なのである。この一本に触れることは、時計製作の理想郷を目指したロジェ・デュブイ氏のプライドそのものに触れることに等しいと言えるだろう。

 

 

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